パウル・クレー

作品は、「風景」(1899年)、おなじく「風景」(1914年)である。1899年のパウル・クレーは、バイオリン奏者から画家を目指し、ミュンヘンで暮らしていた頃。翌年のミュンヘン・アカデミーで、ワシリー・カンディンスキー(ヴァシリー・カンディンスキー)と知り合う。34歳のこと。
1911年には、カンディンスキーとフランツ・マルクが創立した、「青騎士年鑑」の編集にかかわり、1914年では、カンディンスキーやマルクをはじめ、ドイツの前衛芸術家たちとの交流を深めたころ。その友人の一人、アウグスト・マッケが戦死した年でもある。
「青騎士年鑑」編集メンバー
ワシリー・カンディンスキー/フランツ・マルク/パウル・クレー/ガブリエレ・ミュンター
アウグスト・マッケ/アレクセイ・ヤウレンスキー (KAFKA)/ハインリヒ・カンペンドンク/リオネル(ライオネル)・ファイニンガー

左が「with the red x」(1914年)。1914年は、マッケが戦場に行く前に、マッケ、ルイ・モワイエと、北アフリカのチュニジアへ旅を共にする。そして「twittering machine(さえずり機械)」(1922年)。この「さえずり機械」(NY近代美術館)は、線描の技法が活きている。
「色は、私を永遠にとらえた。私と色は一体である。---これぞ幸福なひと時ではなくてなんであろうか。私は絵描きなのだ。」
この旅が、パウル・クレーの色彩と線描、詩的な情緒と、そして画家として「開眼」したのだ。この体験が顕著にあらわれている作品が、「赤と白の円蓋(丸屋根)」(1914年)といわれている。この年から1922年の作品「さえずり機械」までの間、マッケやマルクが戦死した、第一次世界大戦のドイツ軍に召集され、1919年に復員する。翌年からワイマールのバウハウス時代がはじまる。

「Errand boy」(1934年)、「In the Magic Mirror」(1934年)だが、おつかいの坊や、マジックミラー(シカゴ美術館所蔵)などという面白い作品だ。1928年から29年とエジプトに小旅行。過渡期的な作品も多い。1931年にデッサウのバウハウスを辞職。作品は、デュッセルドルフの美術学校の教授をしていた頃。この2点は、パウル・クレーの作品で気に入っているもの。線描、色彩、構図に、クレーの技法が活きており、かつ押し付けがましくない。マジックミラーは、正面と横顔が、ひとつの顔からみえる作品。いわゆる点、線、面、色彩は、この二作品からもうかがえる。
この作品の翌年、難病 皮膚硬化症にかかる。このため手が動かないことがあり、白い画用紙に黒線の天使の作品は、この症状が悪化した時期のもの。谷川俊太郎著作の「クレーの天使」は、この天使を詩集にしたものだ。「忘れっぽい天使」、「泣いている天使」、「鈴をつけた天使」、「希望に満ちた天使」、「おませな天使」、「天使というよりむしろ鳥」、「ミス・エンジェル」などがある。油彩では、「大天使」(1938年 レンバッハハウス美術館)、「哀れな天使」(1939年 プライベートコレクション)がある。

「Arab Song(アラブの歌)」(1932年)、「New Harmony(ニュー・ハーモニー、新しい調和)」(1936年)。アラブの歌は、紙や布を使うコラージュ。幾度か訪れているエジプト。ニュー・ハーモニーは、色にも音にもハーモニー(調和)がある。クレーは、音の画家、色の画家、旅の画家、造形の画家だ。音といえば、音楽に関するタイトルの作品も多い。「バッハのスタイルで」(1919年 ハーグ市立美術館)、「バイエルンのドン・ジョバンニ」(1919年 ソロモン・R・グッゲンハイム美術)、「高いC音の勲章」(1921年 ペンローズ・コレクション)などがある。

「Intention(意志)」(1938年)の作品。この邦題が定かではない。「意志」、「新生」とも邦訳できる。この作品に描かれていのは、まるでエジプトのヒエログリフ(古代 聖刻文字)のようだ。きっとクレーの音楽言語だ。クレーは詩文学にも造詣が深い。オペラなどの題材もある。「ホフマン風の童話風景」(1921年 ベルン美術館)、「喜歌劇『船乗りシンドバッド』戦いのシーン」(1923年 ハンブルク美術館)など。
死の前年には1200点以上描き、生涯にわたり10,000点近く作品を残している。ベルンの「 ツェントルム・パウル・クレー(パウル・クレー・センター)」には、4000点ほど所蔵されている。
1940年、クレー最後の展覧会となった。死の天使と題したクレーの展覧会。この年、60歳だった。
Einst werde ich liegen im Nirgend
Bei einem Engel Irgend
何処にあるというのだろう
それでも 私はいつか
天使のもとで横たわるだろう
作品「哀れな天使」より
